「導入コスト、設置スペース課題をクリア」

―3月から二輪用を意識した通信型ドラレコの新製品が販売されました。
森:通信機能型の防塵・防水仕様で特長的な製品構成ですよね。カメラレンズが筐体にくっついておらずひょろっと2つ出ているなんて初めてです。

佐藤:カメラレンズが筐体についていると本体を被写体に向けて取り付けなければいけないし、サイズも大きくなりがちで天吊りとか設置も工夫が必要ですが、このタイプなら狭い隙間でも問題ありません。
いま金融分野で振り込め詐欺の検出に活かす話を進めています。あまりスペースがないATM機の上部にも取り付けられ、ATMを操作している人をしっかりとらえることができます。カメラ然としておらず威圧感を与えないことも利点です。
森:そうした車載以外での用途は最初からイメージしていたことですか?

佐藤:以前からエッジコンピューティングに活用しようという発想はありました。3年前にソリューションベンダと協業して発表したラズパイ(RaspberryPi)ベースのAIカメラが最初です。その際、人の五感機能をセンサーでサポートする“EXensors(エクセンサーズ:外付けする追加機能”を意味する「EX」とデータを感知する「Sensor」の組み合わせによる造語)”というブランドコンセプトもつくりました。

当時私は企画部門にいて、会社のアセットや技術を活用したうえでドラレコとは別に新規ビジネスを立ち上げようというミッションがあり、そのキーワードのひとつがエッジAIカメラでした。そのときはメーター読み取りのソリューションと組み合わせて市場展開していましたが、PoCまでは進んでもメーター1個ずつに設置するとなると費用対効果が合わず導入に至らないケースが多かった。電源供給や通信モジュールの部分など不良が起きないように産業用途のものを追加していくとコストが上がってしまうんですよね。

森:そういうラズパイベースのカメラと比べると、今回の二輪用プラットフォームは優位性がありますね。振動や環境耐性は四輪用から強くなっていますか?

佐藤:振動はどちらも車輛メーカーに導入する際の高い品質基準をクリアしています。大きく違うところは、やはり防塵防水。屋外で設置するとなるとハウジングが必要でコストやサイズに影響が出ます。
鉄道系は御社とも話を進めていきましたが、駅のホームに設置するとなるとハウジングが必須。アダプタを入れたりAI処理によってこもる熱を冷ます機能などを含めていくとどうしてもサイズが大きくなる。それに比べると、このコンパクトさでこのまま設置できる点は強みになります

森:われわれも機能的にとかソフト的に実現手段を考えがちで、それこそラズパイでできるだろうと考えてみるものの現場ではそうした問題で躓いてしまう。
初めからここまで完成されているのは強みになるという印象です。


「実際は豊富なセンサーを備えた小さなコンピュータ」

―通信型ドラレコとエッジAIカメラは別構想だった。
佐藤:ドライブレコーダーの展開としては、フェーズ1で通信型ドライブレコーダーがモビリティ分野でポジションを確立する、フェーズ2でセンサー端末としてほかの市場へと拡張し、フェーズ3ではそれらの収集データを活用したソリューションを展開する、というビジョンがベースにありました。そこに当初は別の新規ビジネス計画としてあったエッジAIカメラの発想をミックスさせて、フェーズ2として他市場に展開していこうとなったんです。
コストやハウジングの問題はクリアできるし、過去PoCから導入に至らなかった案件も獲得していけるチャンスは大きいと思っています。

森:フェーズ3は新たなビジネスの可能性も感じられて、とても興味深いですね。

佐藤:ドライブレコーダーとなるとカメラ機能に集中しがちですが、加速度センサーやジャイロセンサー、環境センサーもあって実際はセンサーの塊。いろいろなセンシングができる小さなコンピュータといったところです。
いまのアプローチは、たとえば春になると停電にならないよう電柱の鳥の巣を見つけるためにパトロールする人の代わりに、ドライブレコーダーで撮った画からAIで巣を検出して発報するとか、コーンや看板があれば工事中であることを発報して被害が出ないよう早い段階でアプローチするとか、要は人の代わりにドライブレコーダーの機能を使ってデータ活用していきましょうという感じです。

森:タクシーなど車に搭載して鳥の巣や工事場所を検出するシステムですよね。
ドラレコだけどまったく異なる機能創造、付加価値の向上には驚かされます。そうしたデータを活用している車載はいま何台ほど動いているんですか?

佐藤:通信型ドライブレコーダーの販売実績は200万台以上です。これを母数にデータ収集車両を増やしていく計画です。データビジネスを展開するうえでの価値のひとつは、どれだけのデータを集められるか。その入り口をたくさん持っていることはJVCケンウッドの強みと言い切れるでしょう。




「SDKも汎用に。自由度の高い形で開放」

―今後も含めどういった市場を見据えていますか。
佐藤:金融系とか小売分野での購買前行動の把握など引き合いがありますが、仕掛けていきたいのは工場案件です。想定しているのは振り返って改善に生かす活用です。
現場だと1日の生産設計が達成できないことがあり、たとえば1000台の生産計画に対して800台しかつくられていないとしても結果だけでは原因はわからない。そこにカメラを置くと、部材の置き場所が悪く取りに行くオペレーションに時間が割かれているとか、いるべきところに人がおらずラインが止まっている、といったことがわかってきます。何か起きたところだけを検出することで改善でき、見直すための工数削減にもつながると考えています。

森:建築現場も省人化とか建築DXといわれてニーズのある分野だと思います。製品仕様ともマッチしているのであわせて攻めていきたいですね。
その次には車以外の車でフォークリフトなど建機。運転者の監視と車の監視、どちらにも活かせます。

佐藤:建築土木の分野は攻めきれていないのでぜひ一緒に進めていきたいですね。
設置型として監視に近いカメラ用途もありますが、動くものに積むと変化する周辺環境をセンシングするセンサーが豊富に搭載されているので、フォークリフトが傾いてもわかるし、そのときの振動や異音はどうだったかもわかります。VoIPで通信できるので本部側からリアルタイムに指示をしたり、マイクスピーカー機能を使ってアラートを発したりといったスペックも活かせます。

―展開していくうえでお互いの要望は?
森:アプローチの手立ては結構ありそうですね。ドラレコにとどまらないプラットフォームとしての特長点は今後も検討して伸ばしていってほしいです。
屋外ではバッテリーや太陽光を使いたいというケースもあるでしょうし、そういうことも含めて相談して進めていけばと良いなと思っています。逆にデータを生かしたビジネスはわれわれから提案をさせていただきます。

佐藤: ハードウェア面はパートナーの手を煩わせないようにと考えています。オリジナルのドライブレコーダーをつくるSDKも汎用OSにして、リソースを圧迫するアプリをなくし、自由度の高い形で開放することを考えています。
われわれがつくるのは御社側で用意する服が似合う“マネキン”。お客様が必要としているソリューション提案に集中して進めていただける環境を用意したいと思います。

ドラレコを活用したサービス構築
エッジAI&ソフトウェア/システム開発

ドラレコを活用したサービス構築・エッジAI&ソフトウェア/システム開発
こちらをクリック