制御アルゴリズム検証のためのマルチ計測・適合ツール応用情報(2)e-AIソリューション
DTSブログ
更新日:2019/10/30

「モーター搭載家電向け故障検知用e-AIソリューション(ルネサスエレクトロニクス社)」のご紹介

ルネサスエレクトロニクス社(以下、ルネサス社)は、2019年1月に32ビットCPUコア「RXv3」を搭載したマイコン「RX66T」による「モーター搭載家電向け故障検知用e-AIソリューション」を発表しました。モーター故障検知用e-AIソリューションは、センサーを用いることなく、電流波形や回転数の異常からモーターの故障検知が可能、最大4モーターの制御をリアルタイムに実行することができます。ルネサス社が提供する「e-AIソリューション」では、クラウド依存から分離したエンドポイント領域にAIを配置し、リアルタイムに判断して対応できるシステムと製品の強化・実現に向けて開発されています。 ルネサス社が提供している「e-AIトランスレータ」(図1)では、google社が開発したオープンソースのディープラーニングライブラリ「TensorFlow」、カリフォルニア大学バークレー校で開発が進められている「Caffe」の学習済みニューラルネットワーク情報などをマイコンで実装可能なコードに変換することができます。 ニューラルネットワーク(図2)とは、人間の脳神経細胞(ニューロン)の回路網を模倣し、ネットワーク化した学習モデルです。入力層・中間層・出力層で構成され、さらにこの中間層の部分を深くネットワーク化したものをディープラーニング(深層学習)と呼んでいます。層と層の間には識別のための重み(ニューロン同士の結合強度)が存在し、入力層からの情報に各重みを掛け合わせることによってAIモデルによる推論を行います。


RAMScopeによるモーター搭載家電向け故障検知用e-AI検証デモ

2019年4〜5月に開催された「モーター技術展」「人とくるまのテクノロジー展」では、ルネサス社のご協力のもとモーター故障検知用e-AIソリューションのデモキットを使用し、当社製品のRAMScope(制御アルゴリズム検証のためのマルチ計測・適合ツール)によるe-AI検証デモを行いました。
RX66Tに実装されているe-AI学習済み推論モデルは、モーターの動作状態を示す特性データ(電流値)の特徴点をリアルタイムに抽出し、それを推論モデルに入力することで故障を判定します。故障を検知する特徴点の抽出方法は、相電流(トルク電流)のAD変換データ群をFFT処理し、FFT処理から得られた周波数スペクトラムの特定帯域をサンプルとしています。
展示会でのモーター故障検知用e-AIデモは、手動でモーター回転軸のタイミングベルトの張力に一時的に負荷を与え、相電流が大きくなる状態を故障として検知させるという実演を行いました。


RAMScopeでは、AIモデルに入力する周波数スペクトラムの特徴点の内部変数と、AIモデルが出力する判定結果の内部変数をリアルタイムに測定・収録することによって動作検証を行うことができます。
故障検知e-AIソリューションデモに実装された学習済みe-AIモデルは、ベクトル制御アルゴリズムと合わせて検証することが可能です。【下図3】 ブラシレス・モーター制御&e-AI故障検知システムの検証イメージ
●故障デモターゲットとのツール(RAMScope-EXG)接続イメージ
●計測アプリ(RAMScopeVP)の測定グラフ表示
e-AIモデルの内部変数の測定:入力変数(Input Layer)と判定結果の出力変数(Output Layer)
モーター制御(ベクトル制御)の内部変数測定:u・v・w相電流、u/v相シャント電流
計測データはPC-HDDに収録が可能で、e-AIモデルの推論結果の収録データを計測アプリに描画し、後解析を行うことも可能です。


特定条件の電流値を過電流として扱う計算モデルでは、モデルの入力変数と出力変数の相関関係を単回帰分析した線形分離の識別が故障検知としては判り易いですが、さまざまな状態から異常検知をするためには単一の関係式では困難です。故障の要因となる特徴を検知するためには関連する入力条件(入力変数)を増やす必要があります。入力変数の数だけの回帰分析を行う計算負荷が高い重回帰分析の実装が必要となります。(図4)


ニューラルネットワークならば複雑なアルゴリズムが不要です。故障検知を最適化するには、ニューラルネットワークの中間層を増やすことで識別能力を高め、識別誤差を最小化することができます。e-AIならば、故障検知の更新をするために分析の検討及び計算式を組みなおすこともなく、更なる学習をさせた推論モデルを実装することで識別性能をアップデートすることが可能です。RAMScopeで計測した実機データを、教師データとしてAI学習フレームワークに入力し、AIモデルの推論精度向上にご活用ください。
システム障害などの不測な事態を免れるために、システムの状態監視をリアルタイムに行う故障検知AIは予知保全としては有効な手段と思われます。(図5)保全対策のフェイルセーフ(リスク低減)処理を構築する実機検証においても、ぜひRAMScopeをご利用ください。

(参考情報の提供及びデモ製品の展示において、ルネサスエレクトロニクス社のご協力を頂きました。)
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